2012 – 『ロ・デュカ版 裁かるるジャンヌ』(英ユリイカ・エンターテイメント版収録)

ファルコネッティ [Renée Jeanne Falconetti] より

The Passion of Joan of Arc, Lo Duca Version
included in the 2012 UK Eureka Entertainment DVD version

2012年、英ユリイカ・エンターテイメント社はオスロ版をベースにしたデジタル版を4種類発売しています。1)2枚組のDVD版、2)1枚物のブルーレイ版、3)2枚組のデュアル・フォーマット版、4)金属製ケース入りのデュアル・フォーマット版です。今回入手したのはこの内の1)、撮影時に時代考証用の資料で使われたミニチュアをDVDケースにあしらっており、ディスク1に20fps(コマ毎秒)版、ディスク2に24fps版とロ・デュカ版を収録しています。

100頁のブックレット(ブックレットというより普通に「本」です)が付属。研究者による解説の他にアンドレ・バザンやルイス・ブニュエル、クリス・マーカーの残した文章が収められています。その時代時代に映画人たちが『裁かるるジャンヌ』をどう捉えたか、驚きや感動を紙資料で追っていく良企画でした。

寄稿の一つがロ・デュカ版についてまとまった解説を行っています。コペンハーゲン大学で教鞭を執られているカスパー・ティベア氏(Casper Tybjerg、以前にシュテラン・ライについて触れた際にも同氏の論考に触れたことがあります)の手によるもので、同版の映画史的な貢献と問題点をバランスよくまとめています。それでもフランス語圏の情報が完全に伝わっていないな、と思う瞬間があって1)1952年のサウンド版リリース以前に無声版のコピーがつくられていたこと、2)ドライヤー監督の娘さんの訴えが認められ1988年にロデュカ版の流通が禁止されたことの2点は触れられていませんでした。

今回英ユリイカ版を取り寄せたのは「アンドレ・ベルナール氏旧蔵の35ミリ断片がBネガティヴ由来である」の仮説を確かめるためでした。検証の結果、仮説は正しかったと判明しました。詳述は避けますが一例だけ挙げておきます。

アルトーとファルコネッティのやりとりからの一場面。アンドレ・ベルナール氏旧蔵の35ミリ断片には重要な特徴が二つあります。

一つ目は黄色の四角で囲った毛先の部分。アンドレ・ベルナール氏旧蔵の35ミリ版では、髪の毛の先端部分が鉤爪をひっくり返したように尖った感じで跳ね上がっています。二つ目は法衣のフードの根元と首筋の位置関係。アンドレ・ベルナール氏旧蔵版ではフードの根本が縦になっていて首筋の輪郭と並行して走っています。

英ユリイカ版に収録されたロ・デュカ版は上下左右をトリミングされた形ではあるものの、この2つの特徴を備えていて完全一致します。一方オスロ版は毛先がやや丸みを帯びた感じでまとまっており、また法衣のフードが斜めの線を描いて胸元に向かっています。オスロ版を見ることができる方は自身確認していただけば分かるのですが、アンドレ・ベルナール氏旧蔵の35ミリ版の映像はオスロ版=Aネガティヴに含まれていません。

先日の投稿で触れたように、Bネガティヴは現在トリミングされたロ・デュカ版の形でしか残っていないとされています(かつてイタリアにあったとされるパジネッティ版については現在その所在が不明)。サウンド版に編集される以前の、トリミングされていない状態のフレームは現時点でどこの映像アーカイヴも所有しておらず、専門家ですら見たことがないものです。それが人知れずフランスの蒐集家の元に眠っていて、今日本のコレクターの手元に届いているという状況になっています。

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