ファルコネッティ [Renée Jeanne Falconetti] より
『裁かるるジャンヌ』のBネガティヴおよびロ・デュカ版について取り寄せた資料のうちの最後のピース。
1945年にイタリアで公刊された書籍で、118枚のスクリーンショットを通じて『裁かるるジャンヌ』の物語を再構成した一冊。ミラノに拠点を置いていたドムス出版社が戦後に開始した「映画ライブラリー」叢書の第2番に当たります。
収められた写真が現行DVDやブルーレイの元になっているAネガティヴベースのオスロ版とアングルや表情が異なっており、1928年にドライヤー監督が新たに作成したBネガティヴに由来するプリントではないかと推定されています。






今回入手した書籍は1945年の初版第一刷。冊数を限定して発売していたようで「40」のナンバリングが付されていました。冒頭に17ページの序文が置かれ、118ページに渡って写真とテキストで物語世界を再構成、最後にドライヤー監督のフィルモグラフィーが置かれていました。
ちなみにドムス社が書籍に使用したプリントは「パシネッティ版」と呼ばれています。当時の所有者が映画監督兼フィルムコレクターのフランチェスコ・パシネッティ氏(1911 – 1949)であったことからきた名称ですが、そもそもこの情報がどこから来たのか典拠不明でした。確認したところ、序文の最後に次の注釈が見つかりました。
研究用にフィルムのコピーの貸出を認め、文中に掲載したスチール写真を提供して下さったフランチェスコ・パシネッティ氏に感謝いたします。同氏が所有するこのフィルムは、おそらくヨーロッパに現存するコピーとしては唯一のものです。仏教会の有力者たちによって上映禁止の憂き目にあった個所を含んだネガの完全版が、1937年の撮影所火災で失われてしまったのは記憶に新しい所です。
Sono grato a Francesco Pasinetti, che ha concesso la copia del film onde trarne motivi di studio e i fotogrammi riprodotti nel corso del testo. Questa copia posseduta dal Pasinetti è forse l’unica rimasta in Europa. Ricordiamo che il negativo completo del film – comprendente alcuni brani vietati dalle autorità ecclesiastiche francesi – ando distrutto in un incendio del 1937.
この序文を記したのは自身後年に映画監督としてデビューを果たすグイド・グェラッシオ.(Guido Guerrasio, 1920 – 2015)氏でした。同氏がこの一文を寄稿した時にはまだラングロワ版の存在を知らなかったようで、撮影所火災の年にも誤りが見られるものの、掲載した画像がフランチェスコ・パシネッティ氏所蔵のプリントから来ている点については紛れなく明記されていました。
パシネッティ版は現在その所在が特定できておらず、紛れが残るため断定はできないものの、一般的にはBネガティヴに由来すると見なされています。今回手持ちの幾つかのデータと照らし合わせて自分でも確認してみました。
上の4枚の画像は左上が1)パシネッティ版、右上が2)Bネガ起源の仏ロ・デュカ版、左下が3)筆者の入手したアンドレ・ベルナール旧蔵版、右下が4)Aネガ由来のオスロ版となっています。
この場面でAネガとBネガを見分ける際には、向かって左に映っているマシュー(アントナン・アルトー)の髪型が一つのヒントとなります。
1)のパシネッティ版でうなじの背後に着目してみると、髪の一部が小さな束になって飛び出しています。


2)のロ・デュカ版、3)のアンドレ・ベルナール旧蔵版いずれも同じ角度に飛び出ている毛先が見えます。
ところが4)オスロ版だけは形が違っています。うなじの背後に毛先が見えるのですが、先の3例とは違って二つの束に分かれていて角度も下向きになっています。AネガとBネガで髪型の細部に有意な変化が見られるという話で、パシネッティ版、ロ・デュカ版そしてアンドレ・ベルナール旧蔵版が同一のグループに属しBネガティヴから派生してきた証拠の一つとなっています。
[フォーマット]
19.5×14.5cm
[出版社]
ドムス出版社 (Editoriale Domus, Milano)
[出版年]
1945年
[叢書]
映画ライブラリー (Cineteca)
[序文]
グイド・ゲラージオ (Guido Guerrasio)






