情報館・DVD/DVD-R/ブルーレイより


北イタリアの国境地帯を守る憲兵隊の隊長アントニオ・スカパ(レオン・マト)に「暗躍する密輸団の首領ジュゼッペを訪れ、活動を即時停止するよう説得せよ」の命が下った。アントニオは従弟のピエトロにもしもの際の指示を与えて単身辺境の村に向かう。


古い石造りの建物が点在する小さな村、アントニオを迎えたのはジュゼッペの妻と娘だった。「外出しており明日まで戻らない」、アントニオは一晩泊めてもらいジュゼッペの帰宅を待つことに決めた。その旨をピエトロ宛に一筆したためジュゼッペの娘に届けてもらう。


アントニオに用意された一室の扉脇に、「スカパ」と書かれた紙がナイフで留めてあった。話を聞くと、ジュゼッペの姪に当たるマリーナ(シモーヌ・ヴォードリ)の父を射殺した仇の名が「ピエトロ・スカパ」であるとのこと。マリーナはその後ジュゼッペの元に引き取られて、日々墓参りをしながら家の手伝いをしていた。


アントニオからの手紙を託されたジュゼッペの娘(ポーレット・ドリス)はまず父の元を訪れた。憲兵隊トップの生死を握ったジュゼッペは仲間に指示を出しアントニオの襲撃を目論む。一方、以前に面識のあったアントニオとマリーナは互いに好意を深めていく。


アントニオの命が危機に晒されていると知ったマリーナは一計を案じて男を助けようと試みる。隊長の危地にかけつけた憲兵隊と、積年の恨みを果たすべく集結した密輸団の荒くれ者たち。様々な人々の思いが入り乱れる中、果たしてアントニオは敵の毒牙から逃れることができるのか、そして恨みと恋心に引き裂かれたマリーナの思いの行方や如何に。
毎年恒例となった映画の郷版、無声映画関連の年間ベストデジタルリリースの紹介です。
『復讐の夜』はクラウドファウンディングサイト「キックスターター」から生み出された一枚。2024年7月22日から1ヶ月かけて資金を募り、110人のサポーター(90名程が合衆国で残りがハンガリーやイタリア、スペイン、ノルウェーなど国外。日本からの協力者は筆者一人でした)を得てプロジェクトを成功させています。
デジタル盤の売上が全般的に落ちこみを見せるこの数年、オンデマンド方式限定での発売やクラウドファウンディングを活用した小規模なリリースなど新たな試みが目立つようになってきています。2年前に紹介した『マリー・ドロ秀作選』もそんな一枚でしたし、その後もオリーヴ・トーマス主演作等がクラウドファウンディング経由でデジタル化されています。ただ、これらの試みのほとんどはフィルムをアメリカ議会図書館 (Library of Congress)から借用する形になっていました。作品そのものはすでにどこかに保存されていた訳です。
『復讐の夜』が凄いのは、「遺失した」と見なされていた35ミリの完全版を個人コレクターのマイケル・アウス(Michael Aus)氏が自力で発見・購入・輸入し企画をスタートさせている点です。1925~26年に上映された後、誰一人観た記録がない、存在すら知られていなかった作品が個人主導のクラウドファウンディングで一世紀振りに日の目を見たという驚くべき話になっています。
作品自体は勧善懲悪の要素が強いメロドラマ、当時のフランス映画としては及第点以上の出来映えです。古株のレオン・マトと新進女優シモーヌ・ヴォードリの恋愛劇を主軸としつつ、敵対する密輸団首領に名優シャルル・ヴァネル(アンリ・ジョルジュ・クルーゾーの『恐怖の報酬』でもお馴染み)、その妻と娘にそれぞれ芸達者な女優(レイチェル・デヴリ&ポーレット・ドリス)を配し、肉厚で立体感のあるドラマを描くことに成功しています。


物語は北イタリアを舞台にしていますが実際のロケはコルシカ島で実施、同島に残る遺構や廃墟、奇景、奇岩を作品背景に上手く活用。『鉄路の白薔薇』(1923年)等で知られるカメラマン、ガストン・ブリュンが良い仕事をしています。
またこの作品を手がけたのはスイス出身の映画プロデューサー、ステファン・マルクス(Stefan Markus、1884-1957)氏でした。スイス初期映画発展に寄与した人物で、近年その初期作(『ダヴォスからの復讐者』Der Rächer von Davos、1924年)がデジタル復元され再評価の機運が高まっています。1925年フランスに進出してマルクス映画制作所を立ち上げ、第一弾作品となったのが『復讐の夜』。マルクス社はその後もディミトリ・キルサノフ長編(1928年『砂』)、ミュジドラとナピエルコウスカが共演した二度目の(そして最後の)作品『神々のゆりかご』(1926年)を製作。従来の仏映画史で見落とされていた動きであって、『復讐の夜』は失われていた幾つかの流れを結びつけていく貴重な1ピースとなっています。
[IMDb]
La nuit de la revanche
[Movie Walker]
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