映写機用レンズの肖像 [14]: シュナイダー・キプター Sシリーズ f=35mm 1:1.6

映写機用レンズの肖像より

Optische Werke Göttingen Schneider-Kiptar Serie S f=35mm 1:1.6
レンズ名メーカー名製造国焦点距離F値使用映写機製作時期レンズタイプレンズ構成長さ(鏡胴含む)外径(鏡胴含む)
シュナイダー・キプター Sシリーズ シュナイダー社ドイツ35mm1.6ジェム映写機1940年代後半から50年代前半ペッツバール型3群4枚52.3520.3
前玉タイプ前玉外径前玉厚みスペーサー(間隔環)中玉タイプ中玉外径中玉厚みスペーサー(間隔環)後玉タイプ後玉外径後玉厚み
凸凹ダブレット21.08.3メニスカス18.64.00.818.65.4

昨年紹介した独パテックス社のジェム映写機に付属していたのがこちらのキプター35ミリです。機体の修理後に試写を行ったのですが、その時は映写がうまくいきませんでした。スクリーンの位置をどう調整してもピントがあわないのです。レンズの組み方が間違っているのでは…と再洗浄および再調整を行ったものの思った結果が得られず。現時点でベストのアウトプットは下の感じになりました。

ほぼ中心、カスミソウの花にピントを合わせたものです。被写体深度が極端に浅く、中央から少し外れた部分にすぐボケが発生し始めています。描写としてはメイヤー・ゲルリッツのキノン・スーペリアーに近いタイプ。ただしキノン・スーペリアーではピントが合っている部分の範囲が広く、レンズの周辺部にのみ強いグルグルボケが出ていました。今回のキプターではグルグルボケの範囲が広く映写時に映像の左右が大きく乱れる形になります。

実際に9.5ミリフィルムを映写した際のサンプル。犬の頭〜前足〜背中辺りにピントをあわせたもので、この部分だけ見ると解像度、再現度の高い優秀なアウトプット。しかし画像の左1/3はピントが外れて流れてしまっています。

元々こういった描写をするレンズなのか、それともこの個体だけ調整がうまくいっていないのか…判断しかねていたところ、 ドイツ語圏でキプターSシリーズのf=50mmを使用し風景写真を撮っている御仁を発見。作例を見ると似たような特徴(中心のみ解像度が高く、周辺のグルグルボケが大きい)が出ています。元々こういった描写をするレンズなんですね。

ありふれたカスミソウもキプターを通すと前衛アートに早変わり。ある意味キノン・スーペリアーより突っ走っています。被写体深度が浅いためピントあわせがシビアで、画面の端に乱れが出やすい。フィルム実写は難易度が高いものの、ミラーレスで持ち運んで遊ぶには面白い(むしろこういったボケの出るレンズを探している人は多いはず)超個性派のクセ玉でした。