フィルム館・9.5ミリ (伴野商店) & 池田富保 & 映画史の館・日本 より
大佛次郎原作『地雷火組』第一回目の映画化となった1927年日活版の9.5ミリ版。伴野商店からは(以前に紹介した『影法師』と同様に)20m×2本を一篇とし、全体を5篇仕立てで発売する(トータルでは20m×10本)形をとっていました。伴野社のカタログでは
- 90番:地雷火組(第一篇)
- 92番:地雷火組(第二篇)
- 119番:地雷火組(第三篇)
- 121番:地雷火組(第四篇)
- 123番:地雷火組(第五篇)
となっていました。今回手に入れたのは(番号が明記されていないものの)90番か92番に当たる部分で、オリジナルの『地雷火組 第一篇』の後半名場面を収録していました。
『地雷火組』三部作は、鳥羽伏見の戦いの因縁を発端に繰り広げられていく幕末志士たちの壮絶な生き様を描いていきます。この戦いで長州藩は一部の味方の裏切りにより壊滅的に敗北。裏切ったのは因州藩の城戸重蔵(喜多次郎)と判明し、桂小五郎(河部五郎)は覆面姿で城戸邸を襲撃、同志の仇である重蔵を追いつめます。
あと一歩…のところで鳴り響いた銃声。気のそれた隙を見計らい重蔵は逃げ出すのに成功。振り向いた小五郎が目に留めたのは、かつて恋仲であった城戸の娘、夏繪(桜木梅子)が銃を手にした姿でした。父が裏切者であると知った夏繪が泣き崩れると、小五郎は悲しい目をしてその場を立ち去るのです。
追われる立場となった小五郎は白河の仙太(葛木香一)の元に身を寄せます。しかし敵方の天人お吉(酒井米子)に見破られ、仙太宅に御用十手の手が回るのでした。
物々しい雰囲気に仙太が引き戸を開くと表には大挙してやってくる捕物たちの姿。「旦那大変だぁ!」と小五郎を起こすも「役人どもが召捕りに参ったか」と涼し気な顔をしています。
扉を破って家になだれ込んできた役人たち。梁に上った男たちが放った縄に身を絡め取られ、次第に小五郎は追い詰められていく。果たして小五郎は危難を逃れ本懐を遂げることが出来るのか…と続いていきます。『地雷火組 第一篇』本編がここで物語が切れる形になっており、捕物の顛末は『地雷火組 第二篇』で語られていくことになります。
もう一巻は不完全版、別投稿で紹介した個人撮影動画(『東京』)を収めるためにケースを転用してフィルムを繋げる形になっていました。桂小五郎が城戸邸を襲う前のエピソードで、「長州の虎」こと佐橋与四郎(大河内伝次郎)が初めて登場する場面です。
舞台となっているのは三条大橋。桂小五郎の愛妾である芸妓の幾松(川上弥生)が狙われ、捕吏によって襲撃されたところを佐橋(大河内伝次郎)が通りかかり、無事に助け出して小五郎に引き渡す一連の流れでした。
今回入手したフィルムは物語の序破急でいうと「序」に相当。この後佐橋が城戸を斬って仲間の恨みを晴らし、一方で夏繪(桜木梅子)は父の仇を小五郎と思いこみ、天人お吉(酒井米子)の動きに同調していきます。お吉には会うことを禁じられている息子・新吉(中村英雄)がいて、二人の再会までの物語が劇的に語られていく一方、新選組による包囲網が功を奏し、桂・佐橋は次第に追い詰められていきます。近衛公から毛利公への親書を託された佐橋が新選組に包囲され、満身創痍で血路を切り開き、命がけで桂に手紙を託す第三部のクライマックスに展開していきます。
現在、池田富保は1920年代後半の日活オールスター作品(『実録忠臣蔵』『水戸黄門』『尊王攘夷』『維新の京洛』など)を担当していた監督として認知されています。年に二度、春秋に公開されていたこれらの「特作」は当時の愛好家が自分の推しの活躍を楽しむ恒例イベントとなっていました。多くの男女優の見せ場をバランス良く作るのは難易度が高く、池田監督の技量が日活で高く評価されていた証でもあったのですが、殺陣の本格的な凄み、脚本の冴え、照明術の巧みさなどは後回しにされている弱点があります。そのため商業ベースで優秀な実績を残した監督ではあっても、表現者としては同時期の最先端には一歩劣る…の位置付けになってしまいがちです。
『地雷火組』はそういった既存イメージを心地よく裏切っていきます。展開が速く、登場人物の感情や行動の解像度も高めになっており、さらには血生臭さを好む側面が強く出ているのです。こういった作品も撮れるんだ、と驚くところでもあります。実際は逆なんでしょうね。多くの観衆、特に子連れの家族層を念頭に置いた諸作ではマイルドに薄められていただけであって本来の資質はこちら側にあった。『地雷火組』では尖った感覚が他作より強めに出ており、原作の世界観とも相まって上手くまとまったのだと思われます。
[IMDb]
Jiraika-gumi: Dai-ippen
[JMDb]
地雷火組 第一篇
















