小人症映画小史 より
1915年公開の米作品『不思議の国のアリス』は、ベストな解釈であるかどうかは別としても数ある映画版で最も原作小説に近い空気感を漂わせています。アリス役の女優が原作のイメージを正確にトレースしているだけも凄いのですが、他のキャラクター(ドードー鳥、ホワイト・ラビット、イモムシ、ウミガメなど)もオリジナル版の挿絵を手がけたジョン・テニエルのイラスト通りに登場してきます。
この1915年版でホワイト・ラビットを演じたのが米国における小人症映画俳優のパイオニア、ハーバート・ライスでした。1900年代初頭にニューヨーク・ヘラルド紙に掲載されていた人気漫画「バスター・ブラウン」の舞台化で主演を務めたのをきっかけに知名度を上げ、1912年末、新設されたばかりのパンチ映画社と契約し『やぁ赤ちゃん』で映画界にデビューしました。
パンチ映画社は短期で消滅したものの映画界との縁は続き、先に触れた1915年版『不思議の国のアリス』でホワイト・ラビットを演じ、同年の『小人婚活譚』ではラヴィニア・ウォーレン&マグリ伯爵等と共演。さらにマルグリット・クラークの名を一躍有名にした『白雪姫』でも7人の小人の一人として登場していました。
『白雪姫』を最後にスクリーンを離れ舞台に戻ります。映画界と接点のあった期間が短かった(1912-16年)こともあり、その後ライス氏の功績が顧みられる機会はほとんどありませんでした。
状況が変わったのは2020年代。ライス氏の親族より、同氏の遺品がナイルズ・エッサネイ無声映画博物館に寄贈されたのをきっかけに同館で回顧イベントが開かれました(2020年11月)。同イベントの内容は動画にまとめられて公式ユーチューブチャンネルに投稿されています。
動画にはライス氏の映画デビューとなった1912年公開作『やぁ赤ちゃん(Oh, You Baby)』と『可哀想なフィンネイさん(Poor Finney)』のデジタル版が収録されています。前者は後年のハリー・アールの芸風(ベビー服の赤ん坊なのに言動が妙に大人じみている)を予告しているのに対し、後者はルイ・フイヤードの「ベベ君」連作に連なる内容(クルクルした巻毛の愛らしい少年がいたずらで大人の世界に混乱をもたらす)になっていました。
[IMDb]
Herbert Rice
[Movie Walker]
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