1925 – 9.5mm 『ツィガーノ』 1929年 仏パテ社プリント

フィルム館・9.5ミリ (仏パテ社) & 映画史の館・ドイツより

Zigano
(1925, Hape-Film Company GmbH & Gaumont, dir/Harry Piel & Gérard Bourgeois) 1929 French Pathé 9.5mm Print


ナポレオンによる治世下、皇帝に忠誠を誓う若きリュドヴィコ公爵の周辺で策謀が渦巻いていた。公爵がナポレオンのイタリア遠征に同行した隙を伺い、実母テレーザと摂政カノッサ伯爵が結託して権力を我が物にしようとしていたのであつた。

リュドヴィク公爵は出発直前、妻と決めた幼馴染ベアトリスに「忠誠の指輪」を送る。その関係を快く思わないテレーザは二人の仲を裂くようカノッサに命じたのであった。

時を同じくし、田舎に住んでいたベニート青年が町に向かっていた。叔父の推薦により宮廷に仕えることができるようになったのである。だが道中で宿泊した旅籠でベニートは騒動に巻きこまれてしまう。ツィガーノと呼ばれる首領に率いられた盗賊一味が潜伏していると知った兵隊が旅籠を急襲したのであった。

ベニート青年は盗賊団に力を貸し獅子奮迅の活躍で兵隊たちを追い散らした。だがこの戦闘でツィガーノが銃弾に斃れ、盗賊団は離散の危機を迎えた…

成り行きからベニート青年はツィガーノの後を継ぐ決心をした。新参者が党を率いるのを良しとしない者もいたが力で納得させ新たな「ツィガーノ」となった。

公爵の不在中、カノッサは秘かにベアトリスの室内を漁り金目の物を横領していた。引出しに隠されていた「忠誠の指輪」を見つけ、他の貴金属と一緒に袋に放りこんでいく。腹心のマテオに命じて横領品を運ばせたのだが、移送中に盗賊団に襲撃され指輪はベニート青年の手に落ちる。

盗賊団の同志が逮捕された。仲間を助け出すためベニート青年は身分を偽り新たな警察署長として町に入りこむ。

公爵の帰還が近づいていた。本来であれば喜ぶべき出来事であったが、指輪の盗難を知ったベアトリスは悲嘆に暮れながら日々を過ごしていた。カノッサ伯は「指輪の在りかを知っている」と弱みに付けこんでベアトリスをおびき寄せる。策謀を見抜いたベニート青年はツィガーノとして姿を現し悪徳摂政を成敗する。だが公爵が戻るまでに指輪をベアトリスに返さなくてはいけない。砦に戻って指輪を見つけたまでは良かったが、裏切りにあって石牢に閉じこめられてしまう…


『天馬』の監督で知られるハリー・ピールの手によるアクション時代劇。ピールは1923年から25年にかけハペ映畫社を拠点に映画製作を行っていきます。第一弾『仮面の王者』二部作の好評を追い風とし、次作から仏ゴーモン社と提携して作品の規模を拡大していきました。『修羅の猛将』『鉄拳旋風児』に続き製作・公開されたのが『ツィガーノ』です。

ナポレオン帝政期のイタリアを舞台とした義賊物で、肉弾戦、剣術、馬による追跡劇、火薬を使った爆破まで盛りこんだ賑やかな展開。ダグラス・フェアバンクスの『奇傑ゾロ』や『ロビンフッド』を念頭に置き、ハリウッド活劇に比肩する大作を作ろうとの意気込みが伝わってきます。

しかし脚本・演出・編集など粗が目立ち、フェアバンクス作品のスペクタクルを期待してしまうと肩透かしを食らいます。フランス側の共同監督に配されているジェラール・ブルジョワは1910年代から活動している職人肌のベテラン監督、脚本担当は1914年版『ゴーレム』や『ノスフェラトゥ』『妖花アラウネ』のヘンリック・ガレーン。製作陣は実力者を揃えていました。とはいえ速度感や臨場感の要求されるアクション大作向きの布陣ではないですよね…

単体作品として見ると残念な出来映えではあるのですが、この時期のハリー・ピールの動きは興味深いものです。『修羅の猛将』から『ツィガーノ』は独仏が第一次大戦後に本格的に映画を共同制作した初の試みになっています。

独仏のスタッフが入り混じり、さらにイタリア俳優(公爵を演じたライモンド・ファン・リール等)が加わって国際色豊かな作品に。

こうした例は他にも見られ1927年の独仏合作『カサノヴァ』(アレクサンドル・ヴォルコフ監督)では露仏独伊、翌年のデンマーク=ドイツ合作『ジョーカー』(ゲオルク・ヤコビー監督)では英仏独丁の俳優が主要キャストに配されていました。他にも『ばらの騎士』(1926年、ロベルト・ヴィーネ)、『ファウスト』(1926年、ムルナウ)、『死の花嫁』(1929年、A・W・サンドベルグ)など、1920年代後半には主要俳優の国籍が多彩な作品が幾つも公開されています。

こうした傾向は20年代の好景気、国際政治の融和ムードを受けて無声映画の多国籍化が進んでいた状況と結びついています。「ユーロ無声映画」の概念で映画史を見ていく時、『修羅の猛将』から『ツィガーノ』への流れが一つの転換点になったと言うことも出来そうです。

[IMDb]
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[Movie Walker]