シェッローシ・ロージ Szöllősi Rózsi とハンガリー1918年版『妖花アルラウネ』

絵葉書と『演劇生活 Színházi Élet』誌から見る
1910年代ハンガリー映画(07)

Szöllösi Rózsi c1920 Hungarian Postcard

現在、ハンガリーで無声映画の発掘・修復作業の中心となっているのがNFI(ハンガリー国立映画協会/Nemzeti Filmintézet)のフィルム・アーカイヴです。2021年、ハンガリー映画誕生120年を記念する流れの中で、フィルムの発見されていない重要なハンガリー映画120作、鋭意捜索中(Most Wanted)のリストを公開。サイレント期の作品が2/3(80作)占めている辺りからも無声映画に注ぐ並々ならぬ熱意を伺い取ることができます。

このリストに含まれている一つが1918年版『妖花アルラウネ』でした。原作は1911年に出版された同名小説。著者のエヴェルスは『プラーグの大学生』『吸血鬼』原作作家としても知られており、戦前期の映画と縁浅からぬ人物です。

NFI(ハンガリー国立映画協会)の公式サイトより『妖花アルラウネ』紹介ページ
写真中央にヒロインを演じたシェッローシ・ロージ

NFIの公式サイトには『妖花アルラウネ』の紹介ページがあって公開日などの基本データ、キャスト一覧、粗筋、見所などがまとめてあります。見所(What makes it interesting?)欄では原作が発禁になったにも関わらず映画がヒットした点が触れられていました。

映画の下敷きとなった小説は猥褻であるとしてハンガリー国内で発禁処分となり、映画化権を巡ってベルリンでは提訴となった。これらのトラブルにも関わらず映画は商業的的成功を収め国外でも上映された。一連の『妖花アルラウネ』の映像化へと繋がっていったのである。

The novel on which the film is based was banned in Hungary for having obscene content and a lawsuit was filed in Berlin over the film rights. Despite these woes, the film was a hit, it was screened in cinemas abroad as well, and this launched a whole series of adaptations of the novel.

これとは別に、『演劇生活(Színházi Élet)』誌1918年第50号(12月15~22日)に『妖花アルラウネ』の講評を見つけました。

「演劇生活(Színházi Élet)」誌
1918年12月15日-12月22日付第50号

NFI公式サイトと同様で原作発禁について言及しているのですが「旧体制(A régi rendszer)の検閲によって発禁処分となった」と書かれています。第一次大戦末期にハンガリー人民共和国が独立(1918年11月)、社会情勢が変化したどさくさに紛れる形で公開にこぎつけた風景が見えてきます。

またこの記事には監督についての貴重な情報が含まれています。一般的に『妖花アルラウネ』はケルテース・ミハーイ(後のマイケル・カーティス)初期作として紹介されます。共同監督とされているエドムント・フリッツ(Edmund Fritz/ Fritz Ödön)に関しては情報はなし。演劇生活誌には「かつて [独オスター・] メスター社で映画監督をしていたフリッツ・エデン(Fritz Odön, a Messter-gyár volt rendezője)」の表現が見られ、記録には残されていないものの初期メスター社で監督経験があったと分かります。

総評の中盤では映画の見どころを2点紹介。「特異な主題」のみならず、「合衆国流(az amerikai stilü)」そして「比類が無いほど美しく鮮明な映像(a páratlanul szép, tiszta fotográfiák)」と形容されるヴィジュアル面に注意を促しています。スタイリッシュな映像美はスチル写真からも伝わってくるところで、本作の成功を理解していく上で無視できない要素と思われます。

『演劇生活』誌は俳優陣の奮闘を讃え記事をまとめていました。男優陣をハンガリー劇壇で名の知れた俳優で固める一方、ヒロイン・アルラウネ役と、その「母」であるアルマ・ラウネ役にはほぼ無名の新人が配されていました。主演のシェッローシ・ロージは当時ブダペストのアポロ・キャバレーで歌や踊りを披露していたパフォーマー。1917年にケルテース・ミハーイの『冬の内なる春』の端役で映画女優デビュー、その縁で『妖花アルラウネ』ヒロイン役に抜擢されています。

[IMDb]
Alraune

[Hangosfilm]
Alraune


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