1919 – 『戀のサルタン』(ルネ・ル・ソンプティエ&シャルル・ビュルゲ監督) 2021年4K修復版を観る&1919年劇場用パンフレット

映画史の館・フランス より

La Sultane de l’amour
(1919, Les Films Louis Nalpas, dir/René Le Somptier & Charles Burguet)
2021 Cinémathaque française 4K Restoration
La Sultane de l’amour
Artistic Ciné-Théâtre (La Garenne-Colombes) 1919 Theater Program


むかしむかし、遙かアラビアのイラクの國には君主を頂く三つの土地があり、それぞれを三人の王が統べていた。

一人目は名をブラハム・イェシドと言い、ムラードという名の一人息子がいた。二人目の名はマホメド・アル・ハッサンで、ダウラーという娘がいた。最後の王はマリクという名で、豊かな財産と残酷なる性格で名を知られていた。

このマリクは家臣3名に対し世界各地を巡って3つの素晴らしい宝を見つけ出してるよう命じた。

ダウラーは庶民の娘に姿を変えて宮の外へ逃れ、断崖沿いを散歩していた。足を踏み外して海に転落、息も絶え絶えに溺れ死にそうになる。気を失ったダウラー。意識を取り戻すと自分に向け優しく微笑んでいる青年の腕に抱きかかえられていた。

娘はダウラー姫であり、青年はムラード王子であった。かくして二人に恋が芽生え始める。

マリクによって決められた三家臣の帰朝の時が迫っていた。最初にアリが差し出したのは巨大なダイヤモンドであつた。男は死罪を命じられる。サイードは魔法の望遠鏡を差し出した。黒山に住む老いた隠者から奪い取ってきたもので、この贈り物はマリクの賞讃を受けた。

一歩前に歩み出たカヂヤールはこう言った。「私はお知らせを一つ持って帰ってきました。君主の娘ダウラーを見かけたのですが、その美しさは他の宝物を探そうという気を失わせるに十分でありました」

マリクが剣でカヂヤールを突き殺そうとすると、カヂヤールは魔法の望遠鏡を差し出してこう言った「ごらんなさい!」

マリクが望遠鏡を覗きこむとダウラーの姿が見えた。男は身を震わせ手に入れたいと思った。

王はカヂヤールに微笑み、三日以内に女を連れてくるよう命を下した。

カヂヤールは皇太子ムラードと出会い、青年を瀕死の状態にして放置した。自宅へと運ばれた青年に医者は言った。「貴方の傷は大したものではありません。何があったかお話ください」

何があったか青年が語り終えると賢者は忠言した。「黒山に住む老隠者が魔法の望遠鏡を有しています。彼を見つけ出しなさい。何が起こっているか知る事ができるでしょう」。かくてムラードは出立した。老隠者は購入を拒まれたサイードが如何にして望遠鏡を奪い取ったかムラドに語って聞かせた。「マリクを見つけ出し、望遠鏡を取り戻してくだされ」

ムラードは宮廷近くに辿りつき、以前に自身を襲ったカヂヤールが小人道化師を手にかけようとしていたのを見て間一髪で助け出した。

この間にもダウラーは独房ですすり泣いていた。

マリクは娘を引き連れてこさせ、王衣、死を意味するプールのどちらかを選ぶよう迫った。ダウラーが選んだのは死であつた。執行人が娘をプールに横たえる。水位が上がってくるのが分かった。この時、窓から男たちが飛びこんできた。血まみれで倒れこんだマリク。プールに飛び降りた小人がダウラーの手足を縛っていた紐を切り、女を連れ去った。

ムラードはカヂヤールとの闘いに勝利した。小人が気を失った女を運んでくる。若き恋人二人は、献身の褒美に何が欲しいか小人に尋ねた。

「貴女の接吻を…」

小人の願いは聞き届けられた。接吻が与えられると小人は美しき青年に姿を変えた。というのも彼はかつて妖精に呪いをかけられ、若き処女の接吻のみがその呪いを解くとされていたのである。

Il est raconté qu’il y avait une fois dans le pays de l’Irak-Arabi, trois provinces qui avaient été érigées en sultanats et sur lesquelles régnaient trois sultans.

Le premier avait nom Braham-Yesid. Il avait un fils du nom de Mourad.

Le second s’appelait Mahmoud-El-Hassam et il avait une fille, la sultane Daoulah.

Le troisième, le sultan Malik, était réputé pour sa richesse et sa cruauté.

Or, ce Malik, avait imaginé d’envoyer à travers le monde trois de ses chevaliers chargés de lui rapporter les trois plus grandes merveilles qui se pouvaient trouver.

Daoulah déguisée en fille du peuple s’était glissée hors de l’enceinte du château et avait pris sa course de long des rochers escarpés. Un faux pas la précipita dans la mer où elle allait infailliblement se noyer. Daoulah s’évanouit.

Lorsqu’elle révint à la vie, elle s’aperçut qu’elle était dans les bras d’un jeune homme qui lui souriait doucement.

Elle était Daoulah et lui était Mourad. Ainsi naquit entre eux l’amour.

Or le terme fixé par le sultan Malik pour le retour de ses trois cavaliers approchait… Ali s’avança le premier porteur d’un diament énorme… Il fut condamné à mort. – Saïd tendit une lunette magique dérobée au vieil ermite des Montagnes Noires, et son présent fut apprécié.

Kadjar s’avança et dit : moi, je t’apporte cette nouelle : j’ai vu la sultane Daoulah et sa beauté m’a découragé de chercher pour toi d’autres mérveilles.

Malik allait poignarder Kadjar, celui-ci tendit la lunette magique et dit:

Regarde!

Malik Regarda, et lorsqu’il aperçut Daoulah, il frémit et la désira.

Il sourit à Kadjar et le chargea de lui amener Daoulah sous trois jours.

Kadjar se rencontre avec le Prince Mourad et le laisse pour mort. Ramené chez lui, il entend le médecin lui dire : la blessure de ton corps n’est rien, raconte-moi ta peine.

Mourad dit son aventure et le savant lui donna ce censeil : “Un vieil ermite habitant les Montagnes Noires avait en sa possession la lunette magique. Va trouver cet ermite, et tu sauras tout ce qui la concerne.” Et Mourad partit ; le vieil ermite lui raconta comment Saïd n’ayant pu acheter la lunette, lui avait ravie. – Va donc trouver Malik et reprends-lui la lunette.

Il arriva en vue du palais juste à temps pour tirer des mains de Kadjar, qui allait le tuer, un être infrome, le bouffon de Malik.

Pendant ce temps Daoulah gémisait dans le cachot.

Malik fit amener la jeune sultane et lui montrant d’un côté le manteau royal et de l’autre, le bassin où l’attendait sa mort. Daoulah préfère la mort. Les bourreaux la couchent dans le bassin. Daoulah sent l’eau qui monte. Das hommes bondissent par des fenêtres. Au même instant Malik roule ensanglanté. Le bouffon dégringole, coupe les liens de la sultane et l’emmène.

Kadjar est aux prises avec le prince Mourad. Lorsque le petit nain lui ramena Daouhal éperdue et que les deux jeunnes gens lui demandèrent ce qu’il voulait pour prix de son dévouement.

– Un baiser de tes lèvres…

Le baiser fut donné. Le nain contrefait se changea en superbe adolescent, car une fée lui avait jeté un sort et il était écrit que le baiser d’une jeune vierge pouvait lui rendre sa beauté première.


フランスの無声映画期を代表する秀作『戀のサルタン』が1919年末に公開された際の劇場パンフレット。自国でもVHS版しか流通しておらず長らくデジタル化の待たれていた作品で、今年(2024年)初頭にデジタル修復版がシネマテーク・フランセーズ公式サイトで正式に公開されました。

ちょうど同じタイミング、日本では国書刊行会から『ルバイヤート』新訳が出たところ。アラビア語原著からの翻訳ではなくトゥーサン版と呼ばれるフランス語訳からの重訳となっていました。この「トゥーサン」がイスラム文学専門家として知られるフランツ・トゥーサン(Franz Toussant、1879 – 1955)のことで、『戀のサルタン』は同氏による小説を映像化したものとなっています。


ユゴーの名作『マリー・チユードル』以來、久し振りのパテーカラー作品である […]。パテーカラーにはパテーカラー獨特の長所がある。ことにこんなお伽噺的な夢幻的な美しい物語には相應しいものである。色彩の強烈を非難するのは無理であるが、一體に巧妙であり感じも非常にいい。これはデー・ガスチーヌ氏の御手柄と云はなくてはなるまい。筋が筋だからこれだけで俳優の技藝を兎角批評するのは六つかしい話ではあるが、主役初め端役に至るまで皆が眞面目に演じてゐたことは認められる愉快なことである。ヴヱルモワイヨル氏は極殘忍で好色な酋長といつた樣な役目を力強く演じてゐる。フランス・デリア孃のダウラー姫は美しいが、つくりのせいか少々妖婦めいた點がないでもない。二人とも國立劇場のコメデイーフランセーズ座の相當地位ある人たちである。

シルヴイオ・デ・ペドレリ氏のムラ―ドはその王子らしい上品な容貌をとる。ガストン・モド―氏はカヂヤールになりきつてゐる。

『戀のサルタン』
「封切映畫嚴正批評」
『活動花形改題 活動之世界』 大正10年7月号:海の美人號


日本では1921年(大正10年)の4月29日に浅草キネマ倶樂部で封切られました。手持ちの紙資料でいうと『活動花形』 の大正10年5月号に「フランス・デリア孃の主演となる『戀のトルコ王妃』の美しい場面」としてスチルが掲載されており、その二ヶ月後、同誌が『活動之世界』と改題された7月号に講評が寄せられています。

『戀のサルタン』はフイヤード監督の『ティーミン』(1919年)と並び、南仏を拠点にして制作された最初期の無声映画でした。トルコ出身のルイ・ナルパ(Louis Nalpas)がパテ社の資金援助を得る形で小説の映画化にとりかかり、南仏二ースにあった豪邸「ヴィラ・リゼルブ」を改装し撮影に使用。『戀のサルタン』の成功でトップ・プロデューサーの地位を確立しニースに新撮影所を建設、同撮影所は『いろり』(1923年)や渡仏後のレックス・イングラム作品(1926年『魔術師』1928年『我等の海』)の制作に使用されています。

また画家マルコ・ド・ガスティーヌが舞台デザインで映画業界に初参入。元々北アフリカへの憧憬を強く打ち出した画風で、以後本格的に監督業に乗り出して『レバノンの女城主』『ジャンヌ・ダルクの驚異の一生』を生み出していったのはすでに触れたとおりです。

[IMDb]
La Sultane de l’amour

[Movie Walker]
恋のサルタン (公開年に誤りあり)

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